日本大学 医学部 泰羅雅登教授

日本大学 医学部 泰羅雅登教授

 

日本大学 医学部 泰羅雅登教授

 
日本大学 医学部 泰羅雅登教授
2008 年10 月
「本物のサルを仮想世界で歩かせてみよう!」 最初は単なる思い付きでした(笑)でもこれが、後で振り返ると大正解だったんです。と楽しそうに語るのは、日本大学大学院総合科学研究科/医学部の泰羅雅登教授。泰羅先生は、「なぜ世界は立体的に見えるのか?」立体視できる脳のメカニズムや空間認知のメカニズムを長年研究されており、その研究における、 サルに立体視をさせての数々の実験で VRソフト「オメガスペース」 を使用されています。
   
■脳の中のカーナビ
脳に障害を負うと、よく知ってるはずの道順がわからなくなるんです。我々は、脳内には通い慣れた道順ならば無意識でもたどり着こうとする情報、つまりカーナビゲーションのようなシステムがあると考えました。
 
同時にその実験には、サルにある広い空間の目的地までの道順を記憶させて、その道順をたどる時のサルの脳内活動を記録しようと考えました。
 
■世界初!脳科学へのVRの応用
しかし、実際に広い空間を用意して、サルにその中を移動させることは不可能 という課題が残りました・・・
そこで、冒頭の言葉「本物のサルを仮想世界で歩かせてみよう!」が研究グループ内で沸いて出たのです。

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ちょうどこの頃、映画「ジュラシック・パーク」の驚異的な3DCGを見て、「これならサルも実物と見まちがう仮想空間を構築できるだろう」とも考えたわけです(笑)
 
その後、ソリッドレイ研究所に「オメガスペース」をベースとするVRシステムを構築してもらいました。サルが手元のジョイスティックを操作して立体視をしながら仮想ビルの中を移動できるVRシステムです。もちろん、サルは偏光メガネをかけます(!)

 

サルに仮想ビル内の目的地までの道順を覚えさせる訓練は1年ほどかかりました。訓練は、同じ研究グループの 佐藤 暢哉先生 が担当してくれました。「最初はサル自身がよく知ってるサル小屋を再現して慣れさせよう。」とか、「サルが仮想空間の中を歩くスピードはどれぐらいが適切なんだろう。」とか、いろいろな試行錯誤がありました(笑)
 
ジョイスティックを巧みに操作して移動するサル
 
■米科学誌に発表、そして・・・
無事、サルはちゃんとビルの内部を覚えることができました。結果、特定の場所で曲がるなどの動きをしたときにだけ働く神経細胞が、存在すること を発見しました。同時に、同じ場所で同じ動きをしても、行き先が異なるときには活動しない神経細胞も見つけたのです。
 
こうした機能が細胞レベルで明らかにできたのは世界で初めてで、米科学誌にも発表しました。一部メディアでは「泥酔しても帰宅できるのは、脳神経細胞のおかげ」と 紹介されたので、一時期は “ 酔っ払いの先生 ” と呼ばれたりもしましたが・・・
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■これからもVRを使って
現在、この空間認知のメカニズムの研究は 佐藤 暢哉先生 が、立体視できる脳のメカニズ ムの研究は 勝山成美先生 が、さらに発展させてくれてます。ぜひ二人からも話を聞いてみてください。
 
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気さくに明るく取材にご協力くださった
勝山成美先生[左]と佐藤
暢哉先生[右]
 
 
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前回は、2階建の仮想ビルをオメガスペースで制作してもらいましたが、ここ最近は同じく制作してもらった “ 3D迷路のような通路が複雑な仮想空間 ” の中をサルに歩いてもらってます。この仮想空間は道順を自由に変えられる設計となっており、目的地(ここではCGのリンゴ)までの “ より複雑な ” 道順を記憶させて、その道順をたどる時のサルの脳内活動を記録していこうと考えてます。

道順を変えるなど、空間のカスタマイズにはオメガスペースのシナリオ(簡易プログラム)機能を使わせてもらってます。使いやすいですよ。

 
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目が左右2つあるのは物を立体的に見るためと言われます。でも、実際は片目でも世界は立体的に見えますよね?絵や写真が立体的に見えたり、脳が “ 単眼 ” で何を手掛かりに奥行きを計算してるのかを、さらに明らかにしようとしてます。
 
ここ最近は、オメガスペースで “ だまし絵 ” のようなインタラクティブ操作できる3Dデータを制作して、その研究を進めてます。例えば、この3Dデータ(下の2つのムービー)を見比べてみてください。赤いボールの軌道は同じはずなのに、影の位置が違うだけで、ボールの挙動が全く違って見えませんか?
“ 影 ” を手掛かりに、奥行きを感じていることがわかります。
 

* D. Kersten et al., Perception 26, 171-192, 1997 を改変
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これからもオメガスペース、VRを使ってこのような実験用データをいろいろつくろうと考えてます。
 
 
 

編集後記

今回の取材では、残念ながらサルに会えませんでしたが、実験室の片隅にサル用のとても小さな偏光メガネが置かれてたので、その写真を撮ってきました。いつもここで頑張ってるんですね。

それにしても、サルが立体視しながら仮想世界を歩き回るなんて驚きでした。「散歩不足の愛犬にもVRが使えないかな・・・」とつい安易な考えをしてしまいました。

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